頭部外傷
疫学
頭部外傷とは、頭に外から力が加わることで頭の皮膚、頭蓋骨、脳の損傷を来すことです。日本の頭部外傷数は年間およそ28万人と推定されています。
頭部外傷は死亡原因の統計において“不慮の事故による死亡”に含まれます。
不慮の事故による死亡は死亡順位の第6位、死亡総数の4.1%を占めております。重要なのはこの不慮の事故による死亡が、1〜24歳の死亡原因の第1位、25〜34歳でも第2位となっており、その半数が頭部外傷が原因ということです。そして救命されたものの、重い障害や後遺症を残す人数は死亡者の2〜10倍に達すると言われております。若い人が亡くなる、あるいは重い障害を残すということは、身近な例で言えば子供さんやお孫さん、またはその友達ということを考えるととても悲しいことです。そして社会的なことを考えると働き盛り、あるいはこれから働き手となりうる若者の死亡や障害は大きな損失と言えると思います。可能な限り死亡率を低下させ、救命された場合の後遺症を軽減することは極めて大きな意味を持ちます。
頭部外傷は死亡原因の統計において“不慮の事故による死亡”に含まれます。
不慮の事故による死亡は死亡順位の第6位、死亡総数の4.1%を占めております。重要なのはこの不慮の事故による死亡が、1〜24歳の死亡原因の第1位、25〜34歳でも第2位となっており、その半数が頭部外傷が原因ということです。そして救命されたものの、重い障害や後遺症を残す人数は死亡者の2〜10倍に達すると言われております。若い人が亡くなる、あるいは重い障害を残すということは、身近な例で言えば子供さんやお孫さん、またはその友達ということを考えるととても悲しいことです。そして社会的なことを考えると働き盛り、あるいはこれから働き手となりうる若者の死亡や障害は大きな損失と言えると思います。可能な限り死亡率を低下させ、救命された場合の後遺症を軽減することは極めて大きな意味を持ちます。
最も多い原因は交通事故です。かつて「交通戦争」とも呼ばれた時代は年間死亡者数が16000人を超えておりましたが、平成になってから減少しており、交通事故件数や負傷者数もここ10年くらいは減少しております。それに対して、最近の傾向として、高齢者の頭部外傷が増えており、特に頭部外傷の原因として転倒や転落が増えております。やはり高齢化したことにより筋力が低下して転びやすい人が増え、上手に受け身が取れずに頭を強く打ち付けるということが多くなっていると言えます。
解剖
頭は頭蓋骨という硬く閉じられた骨の容器の外側に皮膚や筋肉、内側に脳があります。頭を強く打つと打った部分の皮膚や筋肉、頭蓋骨が損傷して出血や骨折を起こします。ただ、脳は閉じられた頭蓋骨という容器の中に髄液という液体に満たされているため、打ったことの反動で反対側に損傷を起こすことが多いことが特徴です。これを反衝損傷、あるいは反動損傷と言います。右側を打撲すると左の脳に、後頭部を打撲すると前頭葉に出血を起こすといった感じです。
また、脳は大きく分けて3種類の膜に囲まれており、外側から硬膜、クモ膜、軟膜と呼ばれています。この3つの膜のどこで出血をするかで呼び方が変わってきます。硬膜の外側(頭蓋骨のすぐ内側)の出血は硬膜外血腫、硬膜の内側でクモ膜の外側の出血は硬膜下血腫、クモ膜の内側で軟膜の外側の出血はくも膜下出血(特に外傷の場合、外傷性くも膜下出血と呼びます)、軟膜の内側(ほとんど脳内を指します)の出血は脳挫傷、あるいは脳挫傷性血腫と呼びます。ちなみに“血腫”とは、「出血した血液がひとかたまりになって溜まった状態」のことを言います。くも膜のすぐ内側(くも膜下腔と呼びます)は髄液が流れているため、出血を起こしても大きな塊を作ることは少ないため、くも膜下“血腫”とは呼ばずにくも膜下“出血”という言い方をします。
また、硬膜下血腫については、受傷後数時間以内に発生したものを急性硬膜下血腫、受傷後数週間から数ヶ月かけて発生したものを慢性硬膜下血腫と呼びます。
損傷部位による分類
①頭皮の損傷
頭部を打撲すると、皮膚が裂けたり、皮膚の中に出血を起こしてたんこぶができたりします。頭部は血流が豊富であり、動脈が比較的多く走っているため、手足など他の部位より出血が多くなりやすい傾向があります。そのため、傷の場所によっては出血量が多くなってしまったり、たんこぶも大きなコブを形成することがあります。それでもたんこぶであれば圧迫したり冷やしたりして普通は自然に無くなります。皮膚が深く裂けている場合、縫合する必要があります。特に出血が多い場合、止血操作をしたり縫合したりしないと止まらない場合があります。ただ、その場合でも慌てず、ガーゼや乾いたタオルなどで出血している部分を圧迫しながらすぐに病院を受診してください。
②頭蓋骨の損傷
頭部に強い力が加わると頭蓋骨が骨折することがあります。ヒビが割れ線が入る骨折(線状骨折)であればそのままくっつくのを待つことが多いですが、頭の内側にめり込んでしまうような骨折(陥没骨折)であれば、手術での整復が必要になる場合があります。特に感染が疑わしい場合や陥没した骨で脳の圧迫が疑わしい場合は手術の適応になります。美容的な理由で手術を行うこともあります。
線状骨折、陥没骨折いずれも頭蓋骨の下に出血を起こす急性硬膜外血腫(後に記載します)を起こす可能性があります。その場合手術が必要になることがあり注意が必要です。そのため、頭蓋骨骨折を認めた場合には、ほとんどの場合入院をお勧めします。
また、頭蓋骨骨折の中には脳の周りにある髄液という液体が漏れ出てくる場合があります。前頭部を打撲すると鼻から、側頭部(特に耳の後ろ)を打撲すると耳から漏れます。重要なことは頭の中に菌が入り、感染症(髄膜炎など)を起こす可能性があることです。多くの場合、自然に髄液の漏れは止まりますが、止まるまでは寝た状態で安静にしたり、腰からチューブを入れて適度に髄液を抜く治療を行ったり(これにより鼻や耳から髄液が漏れなくなり自然に傷が塞がることを期待します)、感染症に対して抗生剤を投与したりなどの治療を行います。また、それでも止まらなければ髄液が漏れる原因となっている傷を塞ぐ手術が必要になります。大抵の場合、出血を伴っているため、鼻や耳から出血している場合はすぐに病院を受診してください。大事なことは鼻から漏れている可能性がある場合鼻を強くかまないこと、耳からの場合は耳に詰め物をしないことです。間違っても綿棒で耳掃除などはしないでください。
また、頭蓋骨骨折の中には脳の周りにある髄液という液体が漏れ出てくる場合があります。前頭部を打撲すると鼻から、側頭部(特に耳の後ろ)を打撲すると耳から漏れます。重要なことは頭の中に菌が入り、感染症(髄膜炎など)を起こす可能性があることです。多くの場合、自然に髄液の漏れは止まりますが、止まるまでは寝た状態で安静にしたり、腰からチューブを入れて適度に髄液を抜く治療を行ったり(これにより鼻や耳から髄液が漏れなくなり自然に傷が塞がることを期待します)、感染症に対して抗生剤を投与したりなどの治療を行います。また、それでも止まらなければ髄液が漏れる原因となっている傷を塞ぐ手術が必要になります。大抵の場合、出血を伴っているため、鼻や耳から出血している場合はすぐに病院を受診してください。大事なことは鼻から漏れている可能性がある場合鼻を強くかまないこと、耳からの場合は耳に詰め物をしないことです。間違っても綿棒で耳掃除などはしないでください。
③頭蓋内の損傷
頭蓋内の損傷については、局所的な力が加わることで出血を起こして部分的に血腫を形成する“局所性脳損傷”と脳全体が激しく揺らされたことで脳の様々な場所の神経線維が傷んでしまう“びまん性脳損傷”があります。
局所性脳損傷には先ほど説明したように、場所によって急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳挫傷と呼び方が変わりますが、色々な場所が出血することが多く、3つや4つ病名がつくことも珍しくありません。また症状は頭蓋内の圧が高くなることで起きる症状(頭蓋内圧亢進症状)と、血腫やそれによるむくみによって起きる症状(巣症状)があります。頭蓋内圧亢進症状は意識障害(起こしても起きない、反応が悪い)、頭痛、嘔吐があり、巣症状はどこに血腫があるかで言語障害(言葉が出ない、言葉が理解できない)、運動障害(手足の動きが悪い)、感覚障害(手足の痺れ、感覚がない)などの症状を起こします。局所性脳損傷の中で急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷は出血量が多い時には頭を開けて血腫を取り除く手術(開頭血腫除去術)が必要になる場合があります。手術が必要なこれらの疾患は後で説明します。
びまん性脳損傷には意識障害の程度やその持続時間から、“脳震盪”と“びまん性軸索損傷”とに分けられます。
脳震盪は軽症なものであれば受傷直後に混乱状態になったり、日付や場所が分からなくなったり(見当識障害)、それまで何をしていたかやなんでここにいるのかという記憶がなくなったり(逆行性健忘)しますが、普通は完全に回復します。また、軽症ではない“古典的脳震盪”と呼ばれるものは受傷直後に反応がなくなり昏睡状態となりますが、6時間以内に意識が回復するものを呼び、多くの場合後遺症を残しません。
びまん性軸索損傷は受傷時から昏睡状態となり、その後少し意識が改善したとしても反応が悪かったり運動障害や言語障害、嚥下障害(食事が摂れない、飲み込めない)、高次脳機能障害(記憶・意欲・注意力・判断力・作業能力などが低下する、気分や感情のコントロールができないなど)といった後遺症が重く残ることがあります。
びまん性脳損傷は意識障害など明らかな症状があるにも関わらず、頭部CTやMRIで明らかな血腫や脳挫傷を認めないか、あってもごく微小なものにとどまります。従って手術などの効果的な治療方法がなく、呼吸状態や血圧を正常化させたり、高体温(重症な頭部外傷ではよく高熱が出ます)の時には解熱薬を使用したり、脳のむくみを取る薬を使ったりなどの対症療法を行い、脳の回復を待ちます。
局所性脳損傷には先ほど説明したように、場所によって急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳挫傷と呼び方が変わりますが、色々な場所が出血することが多く、3つや4つ病名がつくことも珍しくありません。また症状は頭蓋内の圧が高くなることで起きる症状(頭蓋内圧亢進症状)と、血腫やそれによるむくみによって起きる症状(巣症状)があります。頭蓋内圧亢進症状は意識障害(起こしても起きない、反応が悪い)、頭痛、嘔吐があり、巣症状はどこに血腫があるかで言語障害(言葉が出ない、言葉が理解できない)、運動障害(手足の動きが悪い)、感覚障害(手足の痺れ、感覚がない)などの症状を起こします。局所性脳損傷の中で急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷は出血量が多い時には頭を開けて血腫を取り除く手術(開頭血腫除去術)が必要になる場合があります。手術が必要なこれらの疾患は後で説明します。
びまん性脳損傷には意識障害の程度やその持続時間から、“脳震盪”と“びまん性軸索損傷”とに分けられます。
脳震盪は軽症なものであれば受傷直後に混乱状態になったり、日付や場所が分からなくなったり(見当識障害)、それまで何をしていたかやなんでここにいるのかという記憶がなくなったり(逆行性健忘)しますが、普通は完全に回復します。また、軽症ではない“古典的脳震盪”と呼ばれるものは受傷直後に反応がなくなり昏睡状態となりますが、6時間以内に意識が回復するものを呼び、多くの場合後遺症を残しません。
びまん性軸索損傷は受傷時から昏睡状態となり、その後少し意識が改善したとしても反応が悪かったり運動障害や言語障害、嚥下障害(食事が摂れない、飲み込めない)、高次脳機能障害(記憶・意欲・注意力・判断力・作業能力などが低下する、気分や感情のコントロールができないなど)といった後遺症が重く残ることがあります。
びまん性脳損傷は意識障害など明らかな症状があるにも関わらず、頭部CTやMRIで明らかな血腫や脳挫傷を認めないか、あってもごく微小なものにとどまります。従って手術などの効果的な治療方法がなく、呼吸状態や血圧を正常化させたり、高体温(重症な頭部外傷ではよく高熱が出ます)の時には解熱薬を使用したり、脳のむくみを取る薬を使ったりなどの対症療法を行い、脳の回復を待ちます。
手術が必要になる局所性脳損傷について
先ほども説明したとおり、脳は頭蓋骨という硬い骨の容器の中に存在します。頭蓋骨の内側で出血を起こして大きな塊(血腫)を作ると、その分脳のスペースが無くなり、脳が押しつぶされてしまいます。押しつぶされた脳もダメージを受け、脳がむくみ更に他の脳を押しつぶしてしまうといった悪循環を起こしてしまいます。また、押しつぶされた脳は圧力が少なく隙間が多い方向に向かってずれて行きます。特に隙間の多い下側に向かってしまうと、呼吸や心臓の動きなどの生命維持中枢がある「脳幹」にダメージを与えてしまい、死に至ることもあります。血腫の量が多く、周りの脳を押しつぶしてしまっている状態が症状、あるいはCTなどの画像検査で認められた場合には、手術が必要です。特に手術が必要になる疾患は以下の3つが挙げられます。