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血栓回収療法


詰まった血栓をカテーテルで除去する方法(血栓回収療法)

最近ではカテーテルを用いて詰まっている血栓を直接回収・除去する治療が多く行われており、良い治療結果を出しております。なぜカテーテル治療が最近増えてきているのでしょうか。

血栓溶解療法ですが、太い血管に詰まった大きな血栓は血栓溶解薬では溶かしきれず良くならないことが多いということが判明したことが理由の一つとしてあります(太い血管において、血栓溶解療法単独では再開通率は30%以下です)。太い血管の方が広い範囲に血流を送っていることが多いですが、血栓が溶けなければその広い範囲が脳梗塞になってしまいます。また、治療で使われるカテーテルがここ最近目覚ましく発展しており、再開通率が向上していることも理由の一つです。
基本的に全身麻酔で治療を行います。足の付け根や肘にある太い動脈にカテーテルを入れて、レントゲンで確認しながら首や脳の詰まっている血管に移動させ、治療を行います。原則的には脳梗塞を起こしてから8時間以内の患者さんに行うことができますが、前に説明したように脳梗塞の範囲や側副血行の程度によっては24時間以内であれば行うことがあります。
治療で使われるカテーテルにはいくつかのタイプがあります。
一つは“ステント”と呼ばれる金網を用いる方法、もう一つは“吸引カテーテル”と呼ばれる、文字通り血栓を吸引して除去する方法があります。


ステントは心筋梗塞や狭心症の時に細くなった心臓の血管を広げる時に使われているものとして知られております。ただ、血栓回収療法の時は少し違った使い方をします。血栓で詰まったところでステントを広げると、ステントが広がり血栓を押しつぶします。すると一時的に脳の血流が再開します。ただ、このまま様子をみるとステントの金網の中に血栓がめり込みます。そのうちめり込んだ血栓により再度血管が詰まってしまいます。これでは意味が無いのでは、と思ってしまいますが、再度詰まることでステントが血栓に絡んだと判断できます。そうすれば、このステントをゆっくり引くとステントに絡んだ血栓も一緒に引けて来て、ステントを抜去すると血栓も取り除くことができます。うまくいけば、1回で詰まった血栓を除去できます。


ステントの例:左の動脈(中大脳動脈)がつまっています(矢印)


詰まっている血管にステントを通します


血栓は除去され、再開通しました


吸引カテーテルは、血栓の近くにカテーテルを持っていき、吸引ポンプで吸引をかけて血栓を吸引して取り除きます。大きい血栓であれば小さく崩しながら吸引をかけます。ただ、最近は吸引カテーテルを血栓のお尻に密着させ、ポンプで吸引をかけて血栓をカテーテルの先端にくっつけながらカテーテルを引いてくる、直接吸引法を行うことが多いです。吸引をかけながらカテーテルを抜去すると、先端に大きな血栓がくっついており、これもうまくいけば1回で血栓を除去できます。


吸引カテーテル(ペナンブラカテーテル)の例:中央(脳底動脈)が詰まっています


詰まっているところに吸引カテーテルを持って行き(矢印)、吸引をかけると血栓が取れました


血栓が取れ、再開通しました


また、ステントや吸引カテーテルは太すぎて入らないような先の方の細い血管については、細いカテーテルを誘導し、直接血栓溶解薬を注入する方法(局所線溶療法)を行うこともあります。



脳血管内手術後の治療について


終了後、脳血流の評価のために、脳血流検査(SPECT:スペクト)を行い、病室に帰ります。初めは脳卒中治療室(SCU)に入室します。治療後も全身麻酔を継続し、翌日の検査で術後出血などの問題がないことが確認できるまで続けます。また、すぐにカテーテルが入れられるように、刺した所にシースと呼ばれる管を入れたままにします。このシースも翌日の検査で問題がなければ抜きます。また、その後は脳梗塞が再発しないように、抗血栓薬の投与を開始します。リハビリもなるべく早くから行います。状態が落ち着けば一般病棟に移ります。



脳血管内手術治療で起こりうる合併症について


1)閉塞血管が再開通しない可能性

再開通しない場合、さらに狭窄の程度が悪化することがあります。最近の報告での再開通率は58-88%と様々な報告があります。さらにいったん再開通しても再度閉塞を来すこともあります(これを防止するための治療は致します)。もちろん再開通が無ければ症状の改善は期待できず、症状の悪化を阻止することも困難になります。運動麻痺、感覚障害、言語障害、視覚障害、高次機能障害が進行し、最悪の場合には生命の危険も伴います。


2)手術中、手術後の頭蓋内出血の可能性

再開通が得られても血液の流れが再開したところの脳内に出血が起こることがあります。これは自然に再開通が起こったときと発生率に差はあまりないと言われています。しかし脳出血が起こった場合には症状の悪化を来たし、意識障害の出現・悪化、神経脱落症状(片麻痺)、更に生命の危険も可能性があります。脳出血の程度により緊急で開頭手術が避けられない場合もあります。


3)追加治療が必要になる可能性

ステントや吸引カテーテルを脳の血管に誘導するために、腕や足の血管から太いカテーテルを首の血管まで持って行きますが、この時に大動脈や首の血管が傷つく可能性があります。また、そこから脳の血管にステントや吸引カテーテルを持って行く際、あるいは血栓を回収する際にも脳の血管が傷つく可能性があります。これにより血管が裂けた場合には、裂けた血管に、血栓回収とは別でステントを留置しなくてはいけなくなることがあります。また、太いカテーテルを入れた腕や足の血管の刺した部分に内出血したりしこりが出来たりします。中には動脈瘤を作ってしまう場合があり、追加で塞栓術を行ったり血管外科の専門の先生に手術をお願いしたりする場合があります。


4)放射線による障害の可能性

血管内手術治療はX線の透視のもとで行う方法であり、通常の血管撮影と異なり長時間の透視が必要となります。このために放射線の被曝が多くなり、頭部の脱毛や皮膚炎、神経炎、さらに希ですが、眼球に及ぶと白内障、視力障害を起こすことがあると考えられています。


5)感染

生体は皮膚、粘膜などに被われ、外からの微生物の侵入を防いでいます。我々は無菌手術を心がけていますが、手術の際、微生物の侵入を100%ゼロにすることは現在の医学水準からは困難です。したがって感染が起こったと考えられた場合には、こうした微生物を殺す薬剤すなわち抗生物質を投与します。多くの患者さんでは、術後感染の問題は生じませんが、患者さんの抵抗力が弱かったり、抗生剤の効き目が悪かったりすると、皮下膿瘍、敗血症などの感染性合併症を生じる可能性があります。また、全身麻酔に伴い発生する肺炎や、尿のカテーテルを入れた際に膀胱炎・尿路感染症を起こす可能性があり、これらに対する治療が必要になる場合もあります。


6)薬剤,麻酔などによるショックなどの危険性

当院の脳血管内手術では通常全身麻酔で行っております。また血管撮影用の造影剤を使います。これらの薬剤により薬剤アレルギーやそれに伴う血圧低下など予想しえない副作用を生じることがあります。事前に造影アレルギーなどがある場合は薄めて最小限度での使用を心がけたり、ステロイド剤など抗アレルギー薬を併用しながら治療を行ったりしますが、全く使わない訳にはいきません。どちらにしても、アレルギーをお持ちの患者さんはお知らせ下さい。


7)多臓器の合併症

糖尿病、高血圧、胃潰瘍など様々なこれまで顕在化していなかった疾患が手術を契機として発症することがあります。また患者さんがこれまで既往疾患として持っておられる病気がより重くなることもあります。


当院で現在参加している臨床研究について(2018年12月現在)

【A】SKIP studyについて

現在我が国の脳卒中治療ガイドラインにおいて、急性期脳梗塞の治療で血栓溶解療法(t-PA療法)は有効性が確立されている治療法です。もし血栓回収療法(カテーテル手術)を行うにしても、血栓溶解療法が行えるような場合、血栓溶解療法を行わずにいきなり血栓回収療法を行うことは「医療倫理上の問題があり、研究目的での実施以外は厳に慎まねばならない」とされています。しかし、血栓溶解療法にも主に二つの問題点があります。一つ目は、合併症として重篤な出血が報告されていること、二つ目に太い血管に詰まった血栓は溶かしにくく再開通率が低いことです。また、これまで発表された報告をまとめると、血栓溶解療法をやるかやらないかということは、血栓回収療法の結果の善し悪しには関与しなかったということも分かりました。
そこで、血栓溶解療法を行わずにカテーテル治療を行っても結果に影響を及ぼさないのではと考え、血栓溶解療法を“skip”する人、“skip”しない人に分け、どのような結果になるのかという研究を行っています。
この研究は日本医科大学付属病院脳卒中集中治療科が中心となり、関東の複数の病院が参加しており、我々もこのグループに所属しております。患者さんが、あるいは患者さんのご家族がこの研究についてご理解頂き、参加にご同意頂いた場合に、日本医科大学の研究チームにより、skipをするかしないかの振り分けが行われます。もちろん、勝手に振り分けたり、同意しない・参加しないということで、治療に支障を来たしたりするなどの患者さんが不利益を被ることは一切ありません。

【B】RESCUE-Japan LIMITについて
初めに脳の太い血管が詰まった場合、側副血行が多いか少ないか、脳梗塞の範囲が広いか狭いかで後遺症が重く残るか軽く済むかが変わってくると説明しました。そのため、側副血行が少ない場合は、発見が非常に早く、すぐに病院を受診したとしても、検査をするとかなり広い範囲で脳梗塞が完成してしまっていることもあります。あまりに広範囲に脳梗塞が出来てしまっている場合は、治療による効果が少ないばかりか、治療に伴う合併症が増えてしまいます。このようなすでに広い範囲で脳梗塞になっている場合、血栓溶解療法は「適応外(推奨されない)」となりますし、血栓回収療法は「十分な科学的根拠は示されていないが、症例ごとに適応を慎重に検討し、有効性が安全性を上回ると判断した場合には本治療の施行を考慮しても良い」という、「おすすめしない、あるいはやってもよくならないかも」という非常に消極的な状態です。ただ、いくつかの報告で、治療を行ったら行わなかった人より結果が良かったとの報告があり、脳梗塞が広かったとしても発見が早ければ「やった方が良い」かもしれないと考えました。
そこで、すでに広い範囲で脳梗塞になってしまっている人を、血栓回収療法をやった人とやらなかった人で分け、どのような結果になるかという研究を行っています。
この研究は兵庫医科大学脳神経外科が中心となり、全国の複数の病院が参加しており、我々もこのグループに所属しております。患者さんが、あるいは患者さんのご家族がこの研究についてご理解頂き、参加にご同意頂いた場合に、兵庫医科大学の研究チームにより、血栓回収療法を行うか行わないかの振り分けが行われます。もちろん、勝手に振り分けたり、同意しない・参加しないということで、治療に支障を来たしたりするなどの患者さんが不利益を被ることは一切ありません。